新型コロナの感染をきっかけに定着したリモートワーク。特に最近では、従来通り出社して働くオフィスワークをかけ合わせた『ハイブリッドワーク』が注目されています。
ハイブリッドワークは働く場所をその時の状況に応じて選択できるメリットがある一方で、在宅勤務中に家族の生活音や子どもの様子が気になって仕事にならないといった声も聞かれます。快適なリモートワークを実現するためにプライベートと仕事の空間を明確に分ける間取りにする方法もありますが、居住空間のスペースや、現実的に子どもが小さく分かれて過ごすことが難しいという問題に直面することも少なくありません。
そこで今回は、実際に育児をしながらハイブリッドワークで仕事をしている鈴木さんと鎌上さんの自宅を訪問。暮らしと仕事を上手に融合させながら、家族みんなが気持ちよく過ごせる住宅の工夫を伺いました。
この記事の目次
1.鈴木さんの事例
まずは都内の2LDKにお住まいの鈴木謙太さんのご自宅へ伺いました。専業主婦の妻と5歳の長女、11ヶ月の次女と、4人家族の鈴木さん。都内の企業に勤めており、週3日は出社、週2日は在宅で仕事をしています。長女は幼稚園が午前中のみのため、鈴木さんが在宅ワーク時は午後は妻が長女を連れて外出し、鈴木さんは次女を見ながら仕事をしているそうです。
週に2日とは言え在宅ワーク時に家族全員が在宅している環境で、どのように快適な仕事環境を維持しているのでしょうか。
①書斎は日当たりと風通しを重視
2年前に家を購入した時点で、既に在宅ワークをしていた鈴木さん。居住空間にワークスペースを設ける上で、譲れないポイントがあったそうです。
「家の広さや部屋数など叶えたいことはたくさんありましたが、全部を一度に叶えることは難しかったので条件に優先順位をつけました。その中でも、書斎の日当たりと風通しの良さは優先度を高めにしていたんです」
当時はコロナ禍だったこともあり今よりも在宅ワークの時間が多く、快適に仕事ができることは鈴木さんにとって比重が大きかったそう。実際に角部屋に位置した書斎は二方向に窓があり、日中のほとんどの時間帯で自然光が入り込みます。また両方の窓を開ければ風も良く通るので、気持ちの良い空気が流れていました。
「実際に仕事をしてみて感じたのは、オンオフの切り替えのしやすさです。仕事がうまくいかないとき、流れが悪く気分を変えたい時は窓を開けて空気を入れ替えるだけで、仕事の効率が上がります」と鈴木さん。
また窓には、さらに仕事の効率を上げる工夫がされていると言います。
②駅チカの住宅は二重窓で防音対策
書斎の窓は、関東では珍しい二重窓です。防寒対策のために北国では多く見られる仕様ですが、鈴木さんが二重窓を取り入れたのには別の理由がありました。
鈴木さんは「住宅購入検討時は、会社から近くて、玄関やお風呂場が広くて、リビングが広くて3LDK以上で……と考えていたら、なかなか条件の合う家が見つかりませんでした。子どもが小さいうちは2LDKでも良いのではないかと夫婦で話し合い、ゆくゆく売りに出すことも考えて駅チカであることを優先にしたんです。ただ、そうすると頻繁に電車が通るので騒音に悩まされることが懸念されました」と言います。
そこで書斎の窓を二重窓にすることに決めたそうです。確かに窓を閉めると、電車の音はほとんど聞こえません。
「この窓のおかげで非常に集中して仕事に取り組めるので、よりオンオフの切り替えができるようになったと感じます」と笑顔で話す鈴木さん。建売住宅でも元の窓枠の内側に新しい窓を設置するだけなので、コスパの良い防音対策ではないかとのことでした。
③広めのリビングとオープンキッチンで育児と仕事を両立
現在、週に2日は在宅ワークをしている鈴木さん。まだ手のかかる小さな子どもが2人いる環境で、仕事と育児を両立させることも鈴木さんにとっては大切なポイントだったそうです。
「妻が料理や洗濯など家事をしながら2人の子どもを同時に見るのはかなり難易度が高いと感じていました。実際に、1人のときですら少し目を離しただけで怪我をすることもあったほどです。なので子どもに目の届く範囲で仕事をするにはどうすれば良いか考え、たどり着いたのが広いリビングとオープンキッチンでした」
またキッチンにパソコンを置き、立って仕事をおこなうこともあるという鈴木さん。気分によってキッチン側に立ったりダイニング側に立ったりするそうですが、どちらもダイニングやリビングの様子がよく見え、子どもたちが遊んでいる姿を見守りながら仕事をすることができます。
「パソコンを見ながら子どもを見るのも結構難易度は高いのですが、妻が1人で子どもを2人見るよりは良いかなと思っています」と笑う鈴木さん。今では抱っこ紐で次女を寝かしつけながら仕事をするスタイルが定着しているようです。
④盲点だった、住居内の防音とWi-Fiの感度
住宅購入時から在宅ワークを視野に様々な工夫を凝らした鈴木さんですが、入居後に初めて気づいたこともあったそうです。
「盲点だったのは、住居内の防音です。外の防音対策は考えられたのですが、家の中の防音まで気が回りませんでした」と鈴木さん。書斎でオンラインMTGをする機会も多く、リビングに自分の声が漏れてしまいリビングでお昼寝中の子どもを起こしてしまうことも多いそうで、「住宅内の防音(主にドア)ももっと考えればよかった」と鈴木さんは言います。
またWi-Fiのコンセントをリビングにしか設計しなかったため、書斎の電波が不安定になることも盲点だったそう。「有線にすると廊下にコードがむき出しになってしまうので、書斎で仕事をするときはやむを得ずスマートフォンのテザリングで仕事をしています」と苦笑いの鈴木さん。書斎にもWi-Fiのコンセントを作ればよかったと話してくれました。
2.鎌上さんの事例
次にご紹介するのは、埼玉県の3階建て3LDKの注文住宅で暮らす鎌上織愛さんです。フリーランスで活動する鎌上さんは主に在宅ワークが中心。営業職のご主人は平日のほとんどは外回りで外出していますが、在宅ワークのこともあるそうです。
また子どもは小学校1年生のため普段は学校と学童に通っていますが、週に1日は学校から真っ直ぐ帰宅します。そのため鎌上さんが子どもの面倒を見ながら、在宅ワークをする日もあるそうです。
そんな鎌上さんには、夫婦揃っての在宅ワークや、子どもの面倒を見ながら在宅ワークをするときの工夫を伺いました。
①夫婦での在宅ワークは1階と3階で
8年前に建てた鎌上さんのご自宅。注文住宅で間取りを決めましたが、当時は在宅ワークがなかったため、仕事用のスペースを設けることを考えていなかったそうです。
「出産後にフリーで働くようになり、ワークスペースが必要だということで1階の客間を書斎にしていました。しかしコロナ禍になって夫婦2人で在宅ワークをする日ができ、始めは夫には2階のリビングで仕事をしてもらっていました」
夫婦が揃って在宅ワークをするときは、1階の書斎と2階のリビングに分かれて仕事をしていたという鎌上さん夫婦。一見なにも問題ないように感じますが、大きな不具合が発生したと言います。
「夫は営業なので、頻繁に電話をするんです。我が家はリビング階段のため、リビングの夫の声は1階に筒抜け。うるさくて仕方ありませんでした」と苦笑いする鎌上さん。しばらくは我慢の日々だったそうです。
「仕事も捗らないし我慢し続けるのは精神衛生上よくないし……思い切って部屋の使い方を変えないかと夫に提案しました。元々は1階の部屋を客間、3階の2部屋を寝室と物置に使っていたのですが、1階を夫の部屋、3階を子ども部屋と私の部屋にしたんです」と、用途別に使っていた3部屋を、人別に使い分けることにしたそうです。
音が筒抜けになりやすいリビング階段でも、1階と3階であれば互いの声や音は届きにくくなります。部屋の使い方を変えるだけで、在宅ワークが快適になることもあるようです。
②子ども部屋と書斎をあえてワンフロアに
鎌上さんが在宅ワークで工夫された点は、部屋の使い分けだけではありません。
「学童のない日や体調不良で学校を休むときは、やはり子どもがいるのでほとんど仕事になりませんし、そういうときは子どもと一緒に過ごす時間を大切にしたいなという気持ちも出てしまうんですよね」と鎌上さん。そこで夜に仕事をするスケジュールに変更し、子どもが寝ている様子を見守りながら仕事ができるよう、あえて書斎と子ども部屋をワンフロアにしたそうです。
「1階で仕事をしていたときは子どもが寝てからでないと仕事ができなかったため、寝かしつけをしながら『早く寝て欲しい』という気持ちが出てイライラが募っていました。でも同じ部屋であれば『ママは仕事をしているけど、傍にいるからね』と声をかけるだけで、仕事をしている最中に一人で寝てくれるようになりました。イライラが減りましたね」と笑顔で話します。
また仕事をしている姿を間近で見せられたことも良かったそうです。鎌上さん曰く「社会で働くとはどういうことかを子どもなりに感じ取っているようで、仕事内容を具体的に理解していたり、将来の夢を真剣に考えるようになったと感じます」とのことでした。
③狭小住宅でも叶う2人分のワークスペース
さらに鎌上さんは、ワークスペースを作る上でもう一つ工夫を凝らしました。
「我が家は狭小住宅の部類で、限られた居住空間しかありません。そんな中で2人分の書斎を確保するために、クローゼットの一部をワークスペースにしました」
この形はスペースの有効利用の他にも、壁に埋め込まれる形のため夜に子どもが寝ていても明かりが漏れにくく、壁に囲まれているので集中力も高まりやすいという効果ももたらしたそうです。
また鎌上さんからは「ワークスペースの壁紙を寒色にしたのはたまたまでしたが、集中力UPに繋がりました。またワークスペースを作るなら、幅よりも奥行きがあるほうが仕事しやすいと思います」という意見もありました。
④天井に近い棚は奥行きとライトの位置に注意
様々な工夫をされた鎌上さんですが、もっとこうすれば良かったことはあったのでしょうか。
「ワークスペースの上の棚は必要ありませんでした。棚のせいで天井ライトが半分遮られ机上に明かりが届かない上に、高い位置の棚なので奥まで物を置くと手が届かないんです。付けるにしても半分の奥行きにするか、こういう棚(上記写真)を目の前の壁につけたほうが使い勝手が良かったです」と鎌上さん。今は突っ張り棒で自作の棚を作って、対処しているそうです。
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快適なハイブリッドワークで強まる家族の絆
職種や勤務のスタイルによって異なる部分もありますが、すぐに真似ができる工夫や取り入れやすいポイントも多かった鈴木さんと鎌上さんの事例。どちらにも共通して言えるのは、家の設備や間取り、家具や照明の配置など物理的な工夫のみならず、パートナーなど家族の協力も必要不可欠であるということです。
これから家造りを始められる方や現在検討中の方は、今回ご紹介したご家族の事例を参考に、快適なワークスペース作りに役立ててみてはいかがでしょうか。