ワークショップを通じて生命の神秘を知る!奥深き「透明標本」の世界

2021年8月17日

ピンクやブルー、パープルといったネオンカラーが浮かび上がる美しい海の生物たち。独創的な世界観が魅力の「透明標本」。
世界から脚光を集める珍しい作品を作り続けている透明標本作家・冨田伊織さんのワークショップが「相模原住宅公園」で開催されるとのことで取材にお伺いしてきました。知られざる透明標本についてはもちろん、ワークショップの魅力についてもレポートします!

冨田伊織さんプロフィール

2006年に北里大学水産学部水産生物科学科(現・海洋生命科学部海洋生命科学科)を卒業。在学中に研究用の骨格標本作りに魅せられ、独自の技法でアートの域に仕上げる「透明標本」の制作を開始。その後、社会人を経験するも「魚が好き!」という思いが脳裏から離れず、地元・岩手県にて漁師見習いをしながら透明標本制作を続ける。現在は透明標本作家として地位を確立し、神奈川県に移住。地元の漁師さんの手伝いをしながら、美しい透明標本を作る日々を送っています。公式サイト

透明標本との出会い

「もう何万点作ったか――数は忘れましたが、数えきれない量の標本を作ってきています」

そんな冨田さんが透明標本の制作にハマったきっかけは、学生時代に水生生物の標本を見た瞬間「これは素晴らしい!!」と脳裏に響いたことでした。

「生き物がこんな美しい姿になっちゃうの!?と驚愕したんです。欲しい!と思ったけど、こうした標本類は簡単に手に入るものではありません。手に入れたいのであれば、自分が作るしかないと思い、何も知らない状態から透明標本の世界に踏み入りました。
その後はネットで情報を調べたり、論文を読んだりして試行錯誤を繰り返す日々。さまざまな調合・温度を試し、オリジナルの制作方法を確立しました」

そもそも透明標本とは?

「『透明骨格標本』や『透明二重染色標本』とも呼ばれ、生物の観察手段として古くから作られ、研究分野で用いられてきた手法のひとつです。
魚をいったんホルマリン漬けにし、硬骨を赤(アリザリンレッド)、軟骨を青(アルシアンブルー)で染めた後に肉や皮など軟らかい部分を透明にしたもので、どのように骨が連なっているのか、軟骨がどのように並んでいるのかなどが分かりやすく見えるようになっています」

「ただし、こうした学術用の標本は、基本的に研究に使えればいいので美しさや透明度はそこまで求められていませんでした。僕は美しい標本を作るところに主眼を置いていて、できるだけ透明感がある標本にすることに注力しています。単なる学術標本としてだけではなく、ひとつの生物のあるべき形として見てもらえたら嬉しいですね」

ワークショップの魅力

先日「相模原住宅公園」で行われたワークショップでは、透明標本の展示とともに作り方のレクチャーが行われました。冨田さんが制作した小魚の透明標本を特製の溶液とともにビンの中に入れる、世界でひとつだけの「ミニ透明標本作り」を実践。

なぜ色が付くのか。なぜ透明になるのか。こんなにも美しい標本が出来上がるのはなぜか。冨田さんの丁寧な説明を聞くたびに、子どもからも大人からも感嘆の声が上がり、ワークショップは盛り上がりを見せました。

「相模原住宅公園から声をかけてもらい、3年ほど前に一度ワークショップをしました。今回が2回目の開催になります。僕に出来ることはなんだろう?透明標本を分かりやすく伝えるにはどうすればいいだろう?と考え、展示や瓶詰めなど、小さなお子さんでも楽しめるワークショップを開くことになったんです」

「僕の作品で扱っているなかには『未利用魚』と呼ばれる、漁師さんが水揚げしたものの、商品にならず、食用にも向かず、廃棄されてしまう魚たちがいます。近年『SDGs』というWHOが掲げる目標の中に『海の豊かさを守ろう』というゴールがプラスされ、未利用魚が注目を集めるようになってきていますが、僕はそれよりも前から使っているんです。

こうして捨てられてしまう魚であっても、僕にとっては1匹1匹が宝物です。どんなに小さくてもひとつの命。その命を大切にすることが、地球を守ることにもつながるのだと子どもたちが感じてくれたらいいですね」

また、透明標本を絵に描いてもらい、それを展示するという面白い手法も冨田さんのワークショップならではの試みです。

「僕、標本作りは得意ですが、絵を描くのは苦手なんです。代わりに、子どもたちがたくさん絵を描いてくれて、それを壁にば~っと並べるととても壮観で、感極まるものがあります。こうして、僕ひとりでは作れない空間を子どもたちの手を借りて作り上げていく。これもワークショップの楽しみなのだと実感しています」

「3~4年ほど前に思いつきで始めたお絵描きですが、夢中になって取り組んでくれる子どもたちの姿を見ると、それだけで報われた気分になります」

今後の目標

見て、描いて、学んで。たくさんの気付きに触れることができるワークショップですが、冨田さんはさらなる体験を盛り込み、バージョンアップしたいと意気込んでいます。

「会場によって出来ること、出来ないことがあるのですが、水場がある会場で『透明標本に触ってみよう!』なんて試みも行ってみたいと思っています。標本は透明になっていて見えないだけで、肉や皮が付いているんです。表面がゼリーのようにプルプルしていたり、固かったり。こうして肉が残っていることで骨格がバラバラにならないのですが、見るだけでは分からなかった部分に触れることで、ひとつの生物として認識してもらえるようになると思っています」

「僕自身は透明標本をアートとして見て欲しいというような押し付けは一切行いません。ワークショップを通して最低限の情報を伝えて、そこからどう感じ、どう見ていくかはひとりひとりの自由ですから。

でも、ひとつだけ。生き物ってすごい!と思ってもらえればいいと思っています。そのために展示や写真撮影は、出来る限り生きている瞬間を切り取ったようなイメージで行っています。『標本=死んだ魚』ではなく、生の素晴らしさを感じていただけたら嬉しいです」

おわりに

「相模原住宅公園」では、今回のようなワークショップを始め、子どもたちの知的好奇心を盛り上げるさまざまなイベントが開かれています。

次の週末はぜひ、ご家族そろって住宅展示場へ。
未来の家づくりを夢見るとともに、家族の絆を深める一日をお楽しみください。

 

Photo_Kohji Kanatani Interview & Text_Megumi Waguri Edit_Yasushi Shinohara